2023年4月3日~6日、パシフィコ横浜に於いて「第27回 ESV国際会議」が開催された。ESVは、Enhanced Safety of Vehicleのこと。最先端の自動車安全技術にたずさわる人が集まる世界会議は各国が持ち回りで開催をしているが、日本では20年ぶりである。
スケジュールを見ると、数多く設けられた会議室に朝から晩までみっちりと発表や会議が組まれているが、同時に展示も行われている。こちらは自動車や部品メーカーが出展しているものの、やる気あんのかと言いたくなるような既出技術をぼんやり展示しているところが多いのに対し、2021年11月に「2050年交通事故死者ゼロ」を目標に掲げたホンダは、覇気ある展示が行われていた。
◆安全への「投資を分担」するという考え方
今回、ホンダの展示に込められたテーマは2つ。
(1)投資の分担
(2)予兆をとらえる
クルマの安全技術は進化している。同時に、それらが搭載される車両の価格が上がっているのも事実だ。もしも、2050年交通事故死者ゼロを車両だけで達成するとなれば、価格はとんでもないことになるだろう。ゆえに、交通社会に参加している全員に、それぞれ安全意識と行動、さらに“投資”も分担してもらおうという考え方である。
具体例の一つとして、まず、交差点で右折するクルマのケースが示されていた。
反対車線からは、二輪車が直進してくる。この場合、優先件は二輪車にあるが、タイミングがよければクルマが先に右折することも考えられる。問題はこのタイミングがむずかしく、さらに双方を運転者の間で一致しないことだ。「先に曲がれると思った」「曲がってくるとは思わなかった」というやつ。
ホンダが開発中の技術は、クルマのブレーキの強さでドライバーの意図を読み取り、対向車線からくる二輪車のライダーに知らせようというもの。強く踏んでいれば止まっている。ふっと踏力が弱まればアクセルに踏みかえて加速する、という感じだ。ドライバーの意図をいち早く伝えることができれば、二輪車ライダーの対応もより早く余裕を持って行うことができる。二輪車への情報提供は二輪のインパネ付近、及び、ヘルメット内のコーションライトを検討している。
次のケースとして、右折したクルマはその後、横断歩道をわたっている歩行者と動線がクロスする。このとき、歩行者がおらず「安全に右折できる」のか、歩行者が歩いていて「このままいけば危険」なのかといった判断は、ドライバーだけでなく車両も行ってドライバーに伝えることができれば、これまた事故の危険は減る。ここは、クルマへの投資をして、クルマがドライバーにコーションを与えるようにする。
同時に、歩行者側にも、車両が接近していることを伝えることができれば、歩行者側が対処できる可能性が高まる。青信号で横断歩道をわたっている、なんの落ち度もない歩行者に注意を払えというのか! とお叱りの声も聞こえそうだが、「俺さま、悪いことはしていない!」と、ずんずん歩き続けるよりも注意に気づき、事故に巻き込まれなければその方がいいはずだ。
ドライバーが歩行者に気づいていない可能性は、車内に設置されたドライバーへの視線認知システムが活用できるという。コーション方法としては、車両の外側に設けられたライトを光らせて歩行者にアピールするほか、歩行者が持っているスマホになんらかの情報を送るという。
とはいうものの、交差点を歩きながら車両に注意を払うのはむずかしい。そもそも子どもはスマホを持っていないという声もある。その場合は、通学路や時間帯に応じて道路側にサインポールや警報システムをつければ、スマホがなくても注意をうながせるのではないかという。道路側にも投資を担ってもらうというものだ。
昨今、話題になっているドライバーの健康状態の把握についても、研究が行われている。
(1)胸の動き=呼吸=シートベルトで検知
(2)心拍=シート座面
(3)手汗=ハンドル
(4)意識消失等=視線カメラ
などを駆使して開発が進められている。病気による意識消失だけに焦点を当てているのではなく、焦っている、ゆったり落ち着いているといった気分による変動も研究対象になっており、これらの違いによりアラームを出すタイミングなどを変えていくという。
◆クルマの技術を二輪車側が活かすための技術
二輪車も手掛けるホンダとして開発しているのは、クルマ側の障害物センサーを高度にするのではなく、クルマに気づいてもらいやすくする技術を二輪車側に搭載することだ。クルマの技術を二輪車側が活かすための技術である。投資の分担だ。