自動運転「レベル4~5」は実現しない? 国際学会が自動運転技術に警鐘

市販車として初めて「レベル3」自動運転を実現したホンダ レジェンド。写真は渋滞での自動運転中にスマートフォンを使用している。
  • 市販車として初めて「レベル3」自動運転を実現したホンダ レジェンド。写真は渋滞での自動運転中にスマートフォンを使用している。
  • 市販車として初めて「レベル3」自動運転を実現したホンダ レジェンド
  • 自動運転機能の進化にAIの活用は不可欠(画像はイメージ)
  • AIの活用で連携を発表したソニー・ホンダモビリティとマイクロソフト(CES2024)
  • 北米向けにレベル3自動運転機能を搭載したメルセデスベンツ EQS
  • 北米向けにレベル3自動運転機能を搭載したメルセデスベンツ Sクラス
  • チューリングの完全自動運転車両(イメージ)

4月上旬、コンピューターサイエンスの国際学会が自動運転車の安全性に懸念を表明した。AIを取り込んだ自動運転技術に注目が集まる昨今だが、学会の専門家は「技術にも実験データにも欠陥がある」と警鐘を鳴らしている。

◆権威ある国際学会の警鐘

・規制当局は、完全自動運転車が必然的に交通事故死傷者を減らすと想定すべきではない。

・限られた道路や管理された条件下を除いて、人間のドライバーの注意力なしに完全自動運転車が安全に運行できるかどうかは明らかではない。

・安全性を向上できるかどうは、自動運転車の安全技術やテスト、性能を適切に規制することにかかっている。

専門家たちの警鐘の骨子はこの3つだ。Association for Computing Machinery=略称ACMの「技術政策コミッティー」がまとめた。ニューヨークに本部を置くACMは、コンピューターサイエンス分野で世界最大の国際学会。コンピューターに関わる教育者、研究者、専門家が意見と交換し、リソースを共有し、課題に対処する場として運営されている。IT分野のノーベル賞と称される「チューリング賞」の主催団体でもある。

そんな権威ある学会が、自動運転車に懸念を示す「テックブリーフ=技術短信」を発表した。ACMによれば、テックブリーフは特定の技術がもたらす影響について科学的根拠に基づく視点を提供するもの。今回の問題意識を代表著者のラリー・メドスカーは、「自動運転車は実験データにも技術にも欠陥があるため、充分な情報に基づく規制がもたらされず、安全性が実証された自動運転車の普及可能性が阻害されている」と説明する。

自動運転技術そのものを否定しているわけではない。しかし完全自動運転の実現には疑問符を付ける。現実に完全自動運転の実験車やロボタクシーによる重大事故が続発しており、ACMは「事故を減らせるのか、いつになったら減らせるのかを語るのは時期尚早」と厳しい。

◆人間より安全という裏付けはない

自動運転のシステムは人間のドライバーと違って、「うっかりミス」をしない。だから自動運転技術は、多くの自動車メーカーにとって交通事故死をゼロにするための取り組みになっている。しかしACMは、「自動運転車のほうがミスが少ないかもしれないが、ミスの仕方が異なり、より重大な結果をもたらし得る」と指摘する。

昨年10月にアメリカで、ロボタクシーが他のクルマがはねた歩行者にぶつかり、路肩に自動停車するまで6mにわたって被害者を引きずるという不幸な事故があった。人間のドライバーなら即座に停止していただろう。自動運転が被害を大きくした具体例だ。

ACMによれば、アメリカでは走行1億マイルにつき1件の死亡事故が起きている。その一方、2023年に完全自動運転車がテスト走行した距離は合計2000万マイルだったという。「自動運転車はもっと走行距離を延ばして、データを集める必要がある」とACM。「現状のデータでは不十分であり、自動運転車がリアルワールドで人間のドライバーより安全だというメーカーの主張は裏付けられていない」

冒頭に掲げた「人間のドライバーの注意力なしに完全自動運転車が安全に運行する」という点について、ACMの見解は「現時点では不可能だし、今後も実現しないかもしれない」。ただしこれには「限られた道路や管理された条件下を除いて」という前提があるので、限定された環境で自動運転でき、かつ緊急時には人間が運転するレベル3はありえても、人間が運転に関与しないレベル4~5は無理ということのようだ。

◆AIが自動運転を加速する時代だが…

人工知能=AIの急速な進化で、高精度3次元地図や高精度位置情報システム、あるいは路車間通信によるデータ提供などのインフラがなくても、レベル4~5の完全自動運転できる可能性が見えてきたようにも思える。高速道路だけ、特定エリアだけのレベル4ならともかく、レベル5を支えるインフラを津々浦々に整備するのはどこの国でも難しい。だからこそAIに期待がかかる。

人間のドライバーは基本的に目からの情報で運転している。ナビがない時代は道路地図を頭に叩き込み、あとは目視だけで目的地に辿り着けた。人間の目と脳に代わってAIがカメラ画像を解析すれば、インフラがなくても、高価なセンサーを使わずとも、自動運転が可能になるのではないか? 

テスラはカメラとAIで完全自動運転を目指す構え。2.5万ドル級EVのプロジェクトを凍結し、そのプラットフォームを使ったロボタクシーの開発を急ぐ。ロボタクシーが普及すれば、低価格EVは要らなくなるという考えだ。


《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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