【BMW S1000RR 試乗】210psものハイパワーをつい“扱える”気になれてしまう…伊丹孝裕

BMW S1000RR
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BMWモトラッドのスーパースポーツ『S1000RR』の2023年型が登場。そのデリバリーが始まっている。昨今のトレンドが随所に盛り込まれ、さらなる電脳化が進められた走りとは!?

◆「マイナー」チェンジだが、「大きく」進化

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数あるスーパースポーツの中でも、快適性と速さが最も高いレベルでバランスしているモデルがS1000RRだ。ストリートを走らせた時の苦痛は最小限に留められ、いざサーキットに持ち込めば、存分にスロットルを開けられる従順さを発揮。際限なく価格が上昇していくこのカテゴリーにあって、コストパフォーマンスの面でも優れた競争力を持っている。

2019年にフルモデルチェンジが行われ、その際、エンジンはシフトカムと呼ばれる可変バルブ機構を持つ新ユニットに、フレームは細く、複雑な面を持つフレックスフレームに切り換わっている。この時の刷新を基準にするなら、2023年型はそれぞれに小変更を加えた形ではある。とはいえ、その内容はビッグマイナーチェンジと表現できるほど、多岐に渡っているのだ。

◆前モデルよりも柔軟なエンジンとハンドリング

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エンジンから見ていこう。最高出力は、従来の207ps/13500rpmから210ps/13750rpmへ3psアップと高回転化を実現。それでいてトルクバンドは拡大し、低中回転域のフレキシビリティも見直された。またエアボックスと可変ファンネルの最適化によって、規制への対応と音質の向上もはかられている。

フレームは一見しただけでは分かりづらいものの、くぼみが設けられている部分がある。これによって、加減速時に必要な縦方向の剛性を維持しながら横方向の柔軟性が加わり、よりしなやかなハンドリングがもたらされた。

◆難コーナーも難なくクリアできるポテンシャル

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新型S1000RRの試乗会は、スペイン中南部に位置するアルメリアサーキットを舞台に開催された。アップダウンが多い中速コーナーが組み合わせられ、うっかりすると荷重が抜けやすいレイアウトだ。高い路面追従性が求められるわけだが、新型S1000RRの振る舞いは実に見事だった。

最も印象的なのは、ターンインからクリッピングに向かう時のスタビリティの高さだ。アルメリアサーキットのバックストレートは、6速で280km/h超に達する。そこから右に90度ほど折れ曲がったコーナーに向かってフルブレーキングしつつ、一気に2速までシフトダウン。すぐにやってくる最終コーナーを前にして車速を落とし過ぎず、しかしはらみ過ぎないようにスロットルとブレーキレバーの入力に神経を注ぐことになる……のだが、そうした操作が極めてイージーなのだ。

フロントのブレーキレバーを握ったまま車体をフルバンクさせても危うい挙動を見せることなく、その鼻先がスゥーっとインに入っていく。普通なら車体が起き上がり、あるいはタイヤが切れ込んで旋回力を邪魔する場面だが、それを難なく許容してくれる。スーパースポーツでサーキットを走る時、それを楽しめるか、恐怖感が先立つかは、フロントタイヤの接地感に寄るところが大きい。これが足りないと、ただただ我慢を強いられるわけだが、S1000RRにそれはなく、旋回中の自由度が抜群に高い。

◆その抜群なハンドリング性能は、改良フレームだけが要因ではない

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このハンドリングは、フレームの改良だけが要因ではない。安定方向に振られたキャスター角とトレール量、より緻密になったコーナリングABSとクイックシフターの精度。加えて、極めて高いライディングが要求されるため、その恩恵を授かれたのかどうかは断言できないものの、新採用の電子デバイス『ブレーキスライドアシスト機能』もフォローしてくれたと思われる。

この機能は、ステアリングの舵角も検知する新しい制御で、ドリフト角(≒逆ハン状態の度合い)に応じてそれを抑制したり、維持してくれるシステムだ。舵角の変化量はトラクションコントロールにも反映され、MotoGPやSBK(スーパーバイク世界選手権)のレースシーンで当たり前に見られるタイヤのスライドを積極的に引き出せるデバイスである。これを意図的に繰り出せるかどうかは別にして、量産市販車の電脳化は凄まじい勢いで進んでいることは間違いない。

◆競技車譲りの洗練されたダウンフォース

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一方、目に見える物理的な装備にも大きな変化があった。サイドカウルの左右から大きく張り出したウイングレットの存在だ。ハイパワー化とハイスピード化を辿るマシンにダウンフォースを与え、空気の力を安定性に変換するためのエアロパーツとして、昨今は市販車の世界にも拡大。S1000RRもそのトレンドの波に遅れることなく、採用してきた。

ボックス状のそれは、150km/hで4.3kg、200km/hで7.6kg、そして300km/hの領域では17.1kgの荷重(=ダウンフォース)をもたらす。ストレートはもちろん、高速コーナーになればなるほど、タイヤを路面へ押しつける役割を果たしてくれる。

◆BMW渾身のスーパースポーツは241万3000円から

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フレームの改良、ディメンションの変更、電子制御の追加と最適化、エアロパーツの採用……と改良は多岐に渡り、そのひとつひとつが従来モデルとの間に、明らかな差を生んでいる。すべてがポジティブに機能し、210psものパワーをつい扱える気になれてしまうのだ。それほどの洗練性を身に付けたという意味で、新型S1000RRはスーパースポーツ界随一の完成度を誇っている。

STDモデル(241万3000円~)とMパッケージ(286万4000円~)を主軸とし、様々なパッケージやオプションを用意。ユーザーひとりひとりのリクエストに応えてくれるモデルだ。現在、全国のディーラーで続々とデリバリーが始まっている。

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■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★
足着き:★★★
オススメ度:★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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